鍛え育てて、本物になる。
うどんの麺の作り方は、小麦粉・水・塩を混ぜて作った生地を、しばらく寝かせた後に踏んで鍛え、伸ばして切る。簡単に言うとそれだけです。しかし、その工程上で「いかに麺を鍛え育てるか」ということが大変重要になります。同じ行程をたどるようでも、打ち手のセンスによって出来上がる麺が大きく変わるのはこのためです。うどんのコシは、小麦粉の中のタンパク質が水と絡み合ってできるグルテンによって生ますが、ただ練って寝かせただけでは絶妙なコシや弾力は生まれません。少しずつ成長していく子供に対して、その時期に合わせて接し方を変えていかなければいけないのと同じように、生地がどんな状態で何を望んでいるのかを感じながら接しないと、せっかくいい状態になってきた麺をわざわざ壊してしまうことになりかねません。
といっても、実際にうどんを打った体験がなければ、この話はなかなか分かりづらいと思いますので、皆さんの身近にあるものに置き換えて話をしましょう。食べ物の話をしている時に恐縮なのですが、子供の時に食べているチューインガムを持って長く伸ばして遊んだことが、皆さんにもあるでしょうか。ガムは固まりの状態から急に引っ張ったのでは、すぐにちぎれてしまうもの。子供はガムの張力の微妙な変化を手や顎で感じながら、上手に長く伸ばします。無意識のうちに素材と対話しているわけです。このガムの話が皆様に一番分かっていただける事例だと思います。
おか泉では、生地を踏んで鍛える作業を4時間のうちに5回行いますが、最初から強い力で踏みつけるのではなく、生地の反応を確かめながら徐々に力を加えていきます。さらに踏む人間の体重や、その日の温度、湿度などによっても、踏む時間の調整を行っています。それでも毎日同じ調子の麺を出すことはかなり難しいことです。当店では、素材の吟味はもちろんのこと、麺に関するあらゆるデータを収集・分析し、技の修練を毎日積み重ねることで、お客様のご期待に応えようと努力しています。
私のこだわりとは「一筋の麺にどれだけまごころと情熱を添えることができるか。」その一点に尽きます。